何かと言葉遣いが曖昧な日本語においては、「財務」という言葉もいろいろな意味で使われ、時として「会計」と同じような意味で使われることも少なくない。しかし、両者は本質的に全く異なる意味を持つ。ここでは、「会計」との対比で「財務」の意味を説明しよう。
「財務」とは、「お金を直接扱う仕事」をいう。英語で言えばfinanceだ。お金を直接扱うという点で、同じ系統にある分野は金融といえる。
お金を直接扱う仕事とは、お金の貸し借りや投資による資金の運用などである。広義で捉えるならば、「財務=資金調達+投資」と考えればいいだろう。「コーポレート・ファイナンス」という分野があるが、それは正に資金調達と投資を統合的に扱う分野である。
財務という言葉を狭義で使えば、資金調達だけを指す。この場合は、「財務=資金提供者(株主・債権者)に関わる仕事」と考えればいい。
これに対して「会計」の役割は、「企業活動を記録し報告すること」である。英語で言えばaccountingだ。accountとは元々「説明する」という意味である。
会計というと、「お金を扱う仕事」というイメージを抱く人も少なくないが、会計が扱っているのはお金ではない。会計が扱っているのは情報だ。それがすべて貨幣情報だから、お金を扱っているように感じるだけだ。会計の役割は、企業活動を貨幣情報によって記録・報告することなのである。その意味で、会計と同じ系統にあるのは情報システム、ITといえる。
組織について言えば、財務の役割を担うのは財務部、会計の役割を担うのは経理部や主計部といわれる組織だ。 財務と会計を組織的に分離しておくことは内部統制の基本だ。お金を直接いじれる人が記録もできたら、何でもできてしまうからだ。たとえば、会社のお金を自分の懐に入れておきながら、架空の取引先へ支払ったと記録することなどが簡単にできてしまう。「財務」と「会計」には、超えてはならない本質的な違いがあるのだ。