公正価値

2000年頃にいわゆる時価会計が日本に導入されて以来、「時価」という言葉が頻繁に使われるようになった。一方で、最近は「公正価値」という言葉を使うことが増えている。一般的には普及しているとは言えないかもしれないが、少なくとも会計専門家は公正価値という言葉を使うことが多くなっている。

「公正価値とは要するに時価のことだ」という人もいる。「公正価値=時価」と言っているわけだが、この2つには違いがある。

時価も公正価値も、本来の英語表現に立ち返って考えた方が違いが分かる。「時価」はMarket Valueである。すなわち、「市場において取引されている現時点の価額」ということだ。

たとえば、寿司屋で見かける「時価」は、その日の朝に魚市場で仕入れてきた価額に基づく値段ということだ。株式の「時価」といえば、市場で取引されているその時の価額だ。

ここで問題になるのが、市場での取引がない場合だ。Market Valueというくらいだから、時価は市場で取引が行われることが大前提になっている。市場での取引がなければ、それには時価は存在しない。実際、非上場株式は市場での取引がないから、日本基準においては時価評価の対象外になっている(→有価証券の評価)。

それに対して、公正価値は市場の存在を前提にしていない。「公正価値」は英語でFair Valueという。そこには「何をFairな値と考えるか」という判断が入る。

市場で客観的に決まる時価は公正価値の1つだ。市場が存在しない場合でも公正価値は存在する。たとえば、その企業が将来生み出すキャッシュ・フローの現在価値は株式の公正価値の1つとなりうる。これは数学的に求めた理論値をもってその株式の公正価値とするということだ。欧米人は数学的に説明がつくものを論理的と考える傾向が強いので、彼らはそれを公正と考えるのである。