埋没費用とは、「意思決定に影響を与えない費用」である。英語ではsunk cost(直訳すれば「沈められた費用」)なので、「サンク・コスト」と言われることもある。
意思決定とは、複数の選択肢から1つを選ぶプロセスである。意思決定に影響を与えないとは、選択肢が異なっても変化しない費用ということだ。要するに、「考えても仕方ない費用」ということである。
固定費は埋没費用の典型例である。固定的である以上、選択肢を変えても変わらないからだ。ただし、一般的に固定費に分類される費用であっても、それを変更する権限を持っている人にとっては埋没費用とはならない場合もある。たとえば、正社員の人件費は固定費であるが、解雇する権限がある人にとっては必ずしも埋没費用ではない。
過去に発生した費用は例外なく埋没費用となる。なぜならば、今からいかなる選択肢を採っても、過去のことは変えようがないのからだ。
たとえば、ある設備を買ったばかりなのに、ランニングコストが格段に低い同種の設備が発売されたとする。このとき、「買ったばかりの設備を取り換えるのはもったいない」と考える人がいる。「もったいない」というのは心情的には分かるが、全く合理性はない。なぜならば、今、取り得る選択肢は「旧設備を使い続ける」か「新設備に買い替える」かの2つだけであり、そのいずれを採っても、旧設備を取得するのに支出したお金は返ってこないからだ。今考えるべきことは、新設備購入のための資金を用意できるかということと、今後のランニングコスト削減額でその支出を正当化できるかということだけだ。
言うまでもないが、大きな失敗も、辛い経験も、起きてしまった事はどんなに悔やんでも今さら取り消すことはできない。我々人間が変えられるのは未来だけだ。そうである以上、過ぎたことを悔やむことは何の問題解決にもならない。これからを生きるしかないのである。
埋没費用という費用概念から学ぶべきことは、そういうことなのだろう。